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法曹人口増加をめぐって思うこと(俊和)

2009年4月18日 土曜日
4月18日(土)本日の朝日新聞の夕刊に、「弁護士になったけれど」の見出しのもと、法曹増加、競争激化の実態を示す記事が掲載されました。 「年収500万円台以下 3割」 「仕事に満足感 6割」 世間一般から、高収入の職業と考えられている弁護士業の実態が、実のところそうではないのです。 いわゆる「イソ弁(=給料制で法律事務所に勤務する弁護士)」で、個人事件(=当該イソ弁が、事務所を通さずに単独で受任する事件)が全く無いケースだと、1か月の収入は、 500万円÷12≒41万7000円 となり、事務所によって扱いは異なりますが、ここから、所得税、住民税、健康保険料、年金保険料、弁護士会の会費等が控除されると、実際の月収は30万円程度ということになります。 そして、当該イソ弁が処理すべき事件数は、常時、40~80件程度です。 特定の事件1件だけに精力を注ぐ訳にはいきません。 私の先輩弁護士が「弁護士の仕事=大量の皿回し」と表現したことがあります。 要するに、「1つの皿だけを注視していると、他の皿が落ちて割れてしまう。どの皿も落ちて割れないように精力を分散させる必要がある。」という意味です。 言葉を換えれば、「依頼者にとって弁護士は1人だけれど、弁護士にとって依頼者はワン・オブ・ゼム」なのです。 この点、テレビドラマの弁護士は虚像であり、法廷に出ることだけが弁護士の仕事ではありません。依頼者との打ち合わせ、電話応対、書面作成、刑事事件における遠方への接見、自治体や弁護士会における法律相談、弁護士会における委員会活動などなど…。 はっきり言って、午後5時や6時に仕事は終わりません。というよりも、午後6時以降になってようやく、腰を据えて書面作成に取りかかれたりします。多くのイソ弁が、午後10時や午後11時まで働いています。毎日12~15時間労働という事態は決して少なくありません。 では、独立開業した弁護士は、どうでしょうか。 事務所の規模によって異なってきますが、概要は次のとおりです。 ・事務所の1か月分の経費(人件費含む)は、およそ40万円~100万円程度 ・常時抱えている案件数は、やはり40~100件程度 すうすると、仮に、事務所経費が100万円とすると、着手金50万円程度の事件を1か月に3件受任して、やっと自宅に50万円程度を収入として持って帰れることになります。 実際のところ、1か月に3件の新件があるかどうかは分かりませんし、それら新件が全て着手金50万円とは限りません。 分かりやすい例で言うと、破産事件の平均的着手金は31万5000円(消費税込み)ですが、破産事件の依頼者は資力に乏しいので、弁護士費用を捻出できず、日本司法支援センター(通称:法テラス)に弁護士費用の立替を申請することも往々にしてあります。その場合、弁護士に支払われる着手金は、約15万円です。そして、破産事件の受任から終結までは約4~6か月程度かかります。仮に受任から終結まで5か月とすると、1か月分の弁護士費用は、15万円÷5=3万円であり、一般的な住宅ローンよりも格段に安いということになります。 また、月によっては、経費分の収入しかなく、それでも、抱えている40~100件程度の事件を処理するという事態もあります。 たまに、「弁護士費用は高い」、「弁護士は弱者の味方」ということを口にされる方がいらっしゃいますが、私は正直、う~んとうなってしまいます。 まず、「弁護士費用は高い」ですが、時間給にすると決して高くありません。平均的な着手金額50万円で、受任から終結まで1年間とすると、1か月分は約4万2000円です。もし、この4万2000円を高いとお考えの方は、「血のつながりも交友関係も無い第三者が、自分のために動いてくれる」ことの重みを理解されていないように思います。 次に、「弁護士は弱者の味方」という言葉ですが、これは言外に、「資力の無い人間に対しては、弁護士が無償で奉仕するのが当たり前」という考えが見て取れます。 そもそも、無償の奉仕は自発的にするものであって(その意味で、弁護士個人が自発的にいわゆる手弁当で事件処理にあたるのは、いいでしょう)、他人が強制する筋合いのものではありませんが、それはさておき、「相当なサービスにはそれ相応の対価が伴う」というのは、人間社会(少なくとも資本主義社会において)の当然の理(ことわり)ではないでしょうか。 例えば、高度な医療サービスにはそれなりに支出が必要ですし、高級料理店はおいしい食事を提供するかわりに価格設定も高めです。 われわれ弁護士も、サービス業であることに変わりありません。 ところが、サービス業の前に「法的」とつくと途端に、無償で動くのが当たり前という発想が出てくる。 この点は、永遠に考えていかないといけない問題かもしれません。 ここまで頭に浮かんだことをまとまりもなく、書いてきましたが、いつかは書こうと考えていた弁護士の実態と実感です。私にしては、少々きつい物言いになっていますが、少しでもご理解いただければ幸いです。 では、最初に指摘した記事に戻りましょう。 元鳥取県知事の発言が掲載されています。 もともとの発言をどのように編集したかは分かりませんし、元知事の真意も正確に表現されているかどうかは分かりませんが、「地方では司法過疎の地域がまだ多く」「特に若手には積極的に地方に出て、潜在的な需要を掘り起こす姿勢を求めたい。」とのこと。 弁護士登録したばかりの者や経験年数が少ない者が、突然地方に行ったとて、きちんとした仕事ができるとは思えません。それこそ、手術をしたことのない医師に一人で手術をさせるようなものです。安易に、「人手が足りないから回す」かのような発想では、国民への司法サービスの提供どころか、それを阻害することになります。